監修:アメリカ審美歯科学会認定医、歯学博士 椿 知之
神経がない歯をウォーキングブリーチで白くする方法<2025年度版>
神経がない歯を白くする方法として最も一般的な方法がウォーキングブリーチです。以前は健康保険の適用もあったため、多くの歯科医院で行われています。ただ最近ではウォーキングブリーチ後に歯の根や骨が溶ける副作用も報告されています。ウォーキングブリーチを受けるのに不安ではありませんか?このコラムではウォーキングブリーチを受ける際に注意するポイントを解説します。
1.ウォーキングブリーチとは?
ウォーキングブリーチは、神経がない歯の内部にホワイトニング剤を入れて白くする方法で、1963年から行なわれています。歯の裏側に穴をあけて、元々神経があった穴の中に過ホウ酸ナトリウムと過酸化水素を混ぜ合わせたホワイトニング剤を封入し、1週間ごとにお薬を交換して白くする方法です。根の治療が完全に終了し、歯の根に問題がないことが条件です。歯科医院のチェアーに座ってホワイトニングしてもらうのではなく、患者さんに帰宅してもらいホワイトニング剤を中に入れて歩きながら(ウォーキング)歯を白くするためこの名前が付きました。今のオフィスホワイトニングやホームホワイトニングが出る前の1989年以前は、この方法しかなかったため、神経がある歯でも神経を取ってまでウォーキングブリーチを行っていた時代もあります。現在のホワイトニングが開発された後も、日本では2006年までウォーキングブリーチに健康保険が適用されていたため、多くの歯科医院でこの方法が行なわれていました。現在でもウォーキングブリーチを行っている歯科医院はあります。
2.ウォーキングブリーチの方法

3.ウォーキングブリーチの費用相場
ウォーキングブリーチの料金は歯科医院によって異なりますが、1本5,000円~20,000円前後でお薬を交換する回数によって追加料金がかかります。
4.ウォーキングブリーチのメリット、デメリット
ウォーキングブリーチのメリット
- ホワイトニング剤を封入して長時間ホワイトニングを行うことができるため、かなり変色が強い歯でも白くなる可能性があります。
- 2~3回程度で白くなるため、費用も1本10,000円前後と比較的安く済みます。
ウォーキングブリーチのデメリット
- ウォーキングブリーチ中に痛みが出ることがあります
- ウォーキングブリーチが終わってから数年後に歯の根やその周りの骨が溶けてしまう副作用(外部吸収)が報告されています。この副作用は1~13%程度とされています。
出典:Effect of intracoronal bleaching on external cervical root resorption
5.ウォーキングブリーチで痛みが出る原因
ホワイトニングはホワイトニング剤が分解するときに発生するフリーラジカルが歯の着色を分解して歯を白くします。
ウォーキングブリーチはホワイトニング剤を完全に密封して行う方法のため、根の治療やシーリングが不十分だったり、歯の根の深くまでホワイトニングを行ったりすると、発生したフリーラジカルが外に拡散することができずに歯の根元の象牙質の隙間(象牙細管)から歯の根の膜(シャーピー繊維)を通って骨に到達し、歯の根の周りの組織や骨を刺激して痛みが出ます。この刺激が原因で骨を溶かす破骨細胞が生成されて骨と歯の根を溶かします(これを外部吸収といいます)。この外部吸収はウォーキングブリーチから数年後に起こり、レントゲンで確認することができます。
6.ウォーキングブリーチを安全に受ける方法
神経がないのに歯に痛みを感じるということは歯の周りの組織に刺激が加わっているということです。痛みを我慢したり、鎮痛剤を飲んで痛みを和らげるなどをすると数年後に外部吸収が起こる可能性があります。歯科医院を選ぶ際に下記の項目を確認して、安全にウォーキングブリーチを受けてください。
1.ウォーキングブリーチの施術数が多い歯科医院を選ぶ
ウォーキングブリーチの施術例が多い歯科医院であれば、トラブルが起こった時の対処法方もわかっています。ウォーキングブリーチを受ける歯科医院を選ぶ際に施術数を聞いたほうがいいでしょう。
2.ウォーキングブリーチで痛みが出たときの対処方法を確認する
ウォーキングブリーチで痛みが出た場合はすぐに中断して歯の中のバリアをやり直す必要があります。
3.ウォーキングブリーチに使用する過酸化水素水の濃度を確認する
ウォーキングブリーチに使用する過酸化水素水の濃度が高いとリスクも高くなります。過酸化水素水の濃度が低い方が効果は弱くなりますが、リスクも低くなります。
4.ウォーキングブリーチ時に熱を加えない
ウォーキングブリーチのお薬を歯の中に入れた後に、効果を早めるために熱を加えてホワイトニング剤を活性化する方法もありますが、これは歯の根を溶かしてしまう可能性が高くなるという報告があり、お勧めできません。
以上のことを確認するだけでも外部吸収のリスクを回避することができます。ウォーキングブリーチ中に痛みを感じた場合は我慢せずにまず歯科医師に相談してください。
7.ウォーキングブリーチで効果が出ない場合
ウォーキングブリーチは効果が不確実で白くならない場合があります。
ウォーキングブリーチで歯が白くならない原因は、いくつか考えられます。
1.薬剤が漏れている
薬剤が漏れていると、当然効果は薄れてしまいます。薬剤が漏れている場合は、お口の中で薬品のような味がします。
2.虫歯や死んだ神経、詰め物などが残っている
物理的に取り除かないと、効果が十分に出ないことがあります。一部分が黒かったり、大きい詰め物がある場合は、効果が分かりにくくなってしまいます。
3.薬剤の濃度が低いか古い
通常は35~38%の過酸化水素水を使用しますが、低い濃度の過酸化水素水を使用することがあります。これは歯科医師が意図的に行っている場合もありますし保存していた薬が古くなっている場合もあります。
4.過酸化水素水を使用していない
ウォーキングブリーチは一般的に過ホウ酸ナトリウムと過酸化水素水を混和したペーストを使用しますが、過酸化水素水を使用せずに過ホウ酸ナトリウムだけでウォーキングブリーチを行う方法もあります。この方法ですと外部吸収を起こす可能性はかなり低くなりますが、ホワイトニングの効果はかなり弱くなります。
8.まとめ
ウォーキングブリーチ後に歯の根が溶けているのがレントゲンでわかるのは数年後です。ウォーキングブリーチ終了から数年後に歯科医院でレントゲンを撮影して確認してもらってください。もし根が溶けていることが確認された場合、歯への負担をなるべく少なくするために噛み合わせを調整して歯に当たらないようにします。再度変色してきた場合はウォーキングブリーチやインターナルブリーチはできません。また歯を削ることもできないため、セラミックや差し歯もできなくなります。この場合は歯を削らずに歯の表面に樹脂を塗って白くする歯のマニキュアがいいでしょう。
9.まとめ
ウォーキングブリーチは神経がない歯を白くする方法として多くの歯科医院で行われている方法です。安全に行えば効果的に神経がない歯を白くすることができます。ただ外部吸収のリスクを完全に回避したい場合は、ウォーキングブリーチのようにホワイトニング剤を密閉する方法ではなく、神経の穴を開放してホワイトニングを行う“インターナルオフィスブリーチ”という方法のほうがいいでしょう。またどうしても白くならない場合や痛みが出てしまう場合はマニキュアやセラミックなど人工物を使用した方法をお勧めいたします。
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監修 Dr.TSUBAKI (椿 知之) アメリカ審美歯科学会認定医、歯学博士プロフィールアメリカ審美歯科学会(ASDA)認定医、フェロー 日本歯科審美学会 常任理事、認定医、 日本アンチエイジング歯科学会 常任理事、認定医 |
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